公開日:2024/12/21 06:00 更新日:2024/12/21 06:00
拡大する
歌手の中山美穂さん(享年54)が「入浴中に起きた不慮の事故」により亡くなったことで、あらためて「ヒートショック」の危険性がクローズアップされている。老若男女だれしも注意が必要だが、中でも「高血圧症」の人は、たとえ治療中でもリスクがアップするというから気を付けたい。東邦大学名誉教授で循環器専門医の東丸貴信氏に聞いた。
「ヒートショック」とは、寒い環境と暖かい環境との温度差が10度以上になるような激しい温度変化によって血圧の急激な上昇と下降が起こり、心筋梗塞、心不全、大動脈解離、不整脈、脳卒中といった命に関わる病気を引き起こす現象で、入浴はその典型的な現場といえる。
寒い脱衣所で衣服を脱ぐと血管が収縮して血圧が上昇し、浴槽で43度以上の熱い湯につかるとさらに上がる。体が温まってくると、今度は血管が緩んで広がるので血圧は下がるが、風呂から上がって再び寒い脱衣所に出ると、急上昇する。短時間でこれだけ急激な血圧の上下動を繰り返すことで、血管や心臓に大きな負担がかかるのだ。 とりわけ、血圧が高い人はリスクがアップするという。
Page 2
公開日:2024/12/21 06:00 更新日:2024/12/21 06:00
拡大する
「高血圧症の人は動脈硬化が進んでいるケースが多い。高血圧により血管に常に強い圧力がかかることで血管の内側を守る内皮細胞が傷つくと、悪玉のLDLコレステロールが血管壁に入り込みやすい状態をつくります。このLDLコレステロールは性質が変えられ(酸化)、貪食細胞に食べられます。その貪食細胞の死骸などが瘤のように肥大化してプラークとなり、動脈硬化が進行するのです。動脈硬化によって血管の弾力性が失われると、血圧が上下動したときの変動幅が大きくなります。そのため、高血圧症がある人は、入浴時に生じる血圧の上下動への対応が不十分になり、ヒートショックを起こすリスクがアップするのです」 また、血圧の変動によって血管に負荷がかかると、プラークが破綻して血小板が凝集し、血栓ができやすくなるという。
「血圧上昇の原因として交感神経の亢進が重要で、交感神経が活発に働いていると、血小板がお互いに密着して塊になり(凝集)、血栓ができやすくなります。そのため、高血圧症の人がヒートショックの状態になると、脳動脈や冠動脈に血栓ができて、脳梗塞や心筋梗塞を引き起こすのです。また、血管が傷んでいるので、急激な血圧上昇で脳出血も起こりやすいといえます」
Page 3
公開日:2024/12/21 06:00 更新日:2024/12/21 06:00
拡大する
■入浴前に血圧を測る
高血圧症で降圧薬を服薬している人も安心してはいけない。
血圧は寒暖差やストレスなどさまざまな要因で大きく変動している。薬を飲んでいて普段の家庭血圧が収縮期130㎜Hg程度で安定していても、診察時は160㎜Hg以上になるケースは珍しくないという。 入浴の前後で自分が考えている以上に血圧が大幅に上下動している可能性があるのだ。
「降圧薬の血液内の濃度は数時間から8時間くらいまでがピークと言われていますが、効き方は人によって異なります。近年は朝に1回服用すれば効果がある降圧薬が増えているとはいえ、効きづらい人や血圧のコントロールが不十分な人などは、1日2回、朝と夜に飲んでいるケースも少なくありません。そういう人が降圧薬を飲んでから入浴すると、体が温まってさらに血圧が急降下し、体調が悪化する可能性があるのです。ヒートショックはもちろん、失神して浴室で倒れたり、湯船で溺れてしまう危険もあります。また、降圧薬として利尿薬を飲んでいる人は脱水傾向になり、入浴中に熱中症の状態を招くリスクもあります」
Page 4
公開日:2024/12/21 06:00 更新日:2024/12/21 06:00
拡大する
高血圧症を抱えている人が入浴で命を落とさないためには、脱衣所に暖房器具を置くなど入浴前に脱衣所を暖かくしておく。一番風呂は避け、浴室をシャワーでしっかり暖める。湯船に入る前には手や足にかけ湯をし、一気に肩までつからない……といった一般的なヒートショック対策を実践するのはもちろん、朝食前と夕食後にプラスして、入浴前にも血圧を測って確認することが望ましい。
「降圧薬を飲んでいる人は収縮期血圧が160㎜Hg以上に上がっていたり、逆に110㎜Hg以下と下がっているときは、その日は入浴を控えたほうがいいでしょう」